こんにちは。ファッションアナリストの山田耕史です。

「ファッションをもっと楽しく、もっと自由に」というテーマのもと、ブログを中心にファッション情報を発信しています。

「ファッション☓お仕事」を題材にしたこちらのコラムでは、様々なファッションアイテムの成り立ちや文化をご紹介しています。

無数に存在している服選びに頭を悩ましている人は少なくないでしょうが、ファッションアイテムにまつわる文化を知っていれば、自分にマッチしたアイテムを選びやすくなるでしょう。また、自分が着ているファッションアイテムの成り立ちを知っていれば、会話のちょっとしたネタとして意外と重宝することもあります。

前回のテーマはネクタイでしたが、今回は梅雨の時期が近いということで、レインウェアをご紹介します。

(本稿の内容は信頼の置ける文献を参照しておりますが、歴史的な内容については諸説あるものもありますのでご了承ください)

ライフスタイルの変化で着るようになったレインウェア

レインウェアと聞いて、どんなアイテムを頭に思い浮かべるでしょうか?

子供の頃に着た、お気に入りのアニメキャラクターがプリントされた雨合羽もレインウェアですし、最新鋭のテクノロジーによるハイテク素材を用いたアウトドアウェアもレインウェアと呼べるでしょう。

また、霧雨煙るロンドンで名探偵シャーロック・ホームズが着ていたトレンチコートもレインウェアのひとつです。

● スイスのマイリンゲンにあるホームズ像 ※Wikipediaより
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Statue of Sherlock Holmes at Meiringen, Switzerland. Created by British sculptor John Doubleday. Unveiled September 10, 1988 — Sherlock Holmes statue at Meiringen2.jpg (14 August 2004) by Juhanson, CC-BY-SA-3.0-migrated.

そもそも、レインウェアを着ている人はどれくらいいらっしゃるでしょうか。

雨の日、傘や雨靴を使う人に比べれば、レインウェアを着る人はそれほど多くないかもしれません。

実は僕も、つい数年前まではレインウェアを着る機会はあまりありませんでした。ですが、ここ数年は頻繁に着るようになりました。その理由は、僕のライフスタイルに変化があったからです。

現在、僕は兼業主夫。

そんな僕の日課のひとつが、3人いる子供のうち、2人が通う保育園の送迎です。

晴れの日は電動自転車の前後に2人を乗せて送迎するのですが、雨の日は保育園近くのコインパーキングまで自動車で行き、そこから保育園まで歩きます。

大人が歩けば1、2分の短い距離ですが、2人の子供を連れて行くのは結構大変。特に3歳の次男は抱っこをせがんだりすることがあります。傘を差しながら抱っこをするなると、17キロの次男を片手で支えなければなりません。僕は筋力に自信があるタイプではないので、たった1、2分でも腕が千切れそうになってしまいます。

ですが、レインウェアを着ていたら両手でしっかりと抱っこが可能ですし、抱っこをしていないときも、不意に子供が走り出したときなどにも素早く対応が可能です。

ということで、最近はアンバサダーを務めているワークマンのレインウェアを着用しています。今やレインウェアは、兼業主夫である僕にとって欠かせないアイテムになっています。

イギリスで生まれた防水生地の数々

僕が愛用しているワークマンのレインウェアには防水加工が施された生地が使われています。更に、透湿性も備えているので、夏場でも蒸れにくくなっていますが、ここまで快適なレインウェアが生まれるまでは、無数の試行錯誤が存在していました。

防水加工が施された生地が生まれたのは1824年。イギリスのマッキントッシュ社が、石炭からガスを作る際に出る廃物、コールタール・ナフサを布地で挟んだ防水布を開発しました。ゴムによる防水性の高さは雨よけに効果を発揮しましたが、通気性が悪さや特有の臭いというデメリットもありました。

● A gentleman’s Macintosh, from an 1893 catalogue ※Wikipediaより

 

 
Anonymous illustrator, Public domain, via Wikimedia Commons

その後、1850年にはロンドンのリージェントストリートに店を構える仕立て屋がウールに防水加工を施した生地を開発し、アクアスキュータム(ラテン語で「水を通さない」という意味)と名付け、売り出しました。そう、今も紳士服を中心とした高級ファッションブランドとして知られる、アクアスキュータムの誕生です。

アクアスキュータムではウール素材特有の柔らかさを保った生地を、テーラーが仕立てていたので、そのエレガントさから上流階級の男性の人気を獲得しました。

トレンチコートの名称の由来は第一次世界大戦

トレンチコートあるある

アクアスキュータムのコートはクリミア戦争(1853〜1856)では高官が着用。第一次世界大戦(1914〜1918)では王室御用達を得た唯一のコートとして、英国陸軍に採用されました。

第一次世界大戦では塹壕戦が多く、水はけが悪い塹壕から、当時の最新兵器だった戦車の動きを監視する際に寒さと湿気から身を守るために、アクアスキュータムのレインコートは必要不可欠な存在でした。塹壕は英語でトレンチ。トレンチコートの名称の由来は第一次世界大戦にあったのです。

● 1916年のソンムの戦いにおけるイギリス軍の塹壕。右の見張りの兵士以外は休息を取っている。 ※Wikipediaより

 

 
John Warwick Brooke, Public domain, via Wikimedia Commons

アクアスキュータムと並んで、トレンチコートの代名詞的存在として知られるイギリスのブランドがバーバリーです。

バーバリーは1850年代にギャバジンという綾織の織物を使い、冬は暖かく、夏は涼しく、さらに動きやすい防水生地を開発。1895年には英国陸軍の制服の製造を手掛けるようになります。1911年にはノルウェーの探検家、ロアール・アムンセンが人類初の南極点に到達していた際にバーバリーのコートを着用していたことで、高い機能性が広く世に知られるようになりました。

商品名としてトレンチコートが生まれたのは1914年。将校向けに肩章とDリングを追加したコートを陸軍省から依頼されたのがきっかけです。また、トレンチコート同様バーバリーのアイコンとして知られるバーバリーチェックがコートの裏地として登場したのは1924年。

トレンチコート同様バーバリーのアイコンとして知られるバーバリーチェックがコートの裏地として登場したのは1924年

バーバリーチェックはタータンチェックの一種として、スコットランド政府の登記局に登録されています。

機能性を追求したからこそ生まれた普遍的なデザイン

トレンチコートにはどんなイメージがあるでしょうか。ダンディな英国紳士、あるいはオフィス街を颯爽と歩くビジネスウーマン。そんな、スタイリッシュなイメージが強いかもしれませんが、トレンチコートに備えられたディテールを詳しく見ていくと、機能性が極限まで追求されたアイテムであることがわかります。

肩の付いているループは、バッグなどの装備品がずり落ちないようにすると共に、階級章を付けるという目的もあります。

特徴的な右肩の生地が二重になっている部分はストームフラップと呼ばれています。前立の合わせの上に被せると、雨風の侵入が防げるようになっています。それに加え、襟元のチンストラップを装着すると、首部分からの雨風は完全にシャットアウトが可能です。

首元を守る状態(写真はCOACHのトレンチコート)
首元を守る状態(写真はCOACHのトレンチコート

その他のディテールも、雨風の侵入を防ぐために袖口に付けらたカフスストラップや、肩の動きを妨げないラグランスリーブなど、快適性や動きやすさなどを求めて生まれたものばかりです。見た目の良さだけを求めた上っ面のデザインではなく、道具としての機能性を追求して進化してきた結果、トレンチコートは時代を超えて愛される普遍的なデザインを獲得できたのでしょう。

お気に入りのレインウェアで雨の日も楽しく

今回ご紹介してきたアイテム以外にも、様々なレインウェアがあります。機能性を追求するのもいいでしょうし、機能性は度外視してファッション性重視でレインウェアを選ぶのも面白いでしょう。

これからの季節、今の気分にマッチするレインウェアが一着あれば、雨の日の外出も楽しくなるでしょう。

※参考文献
坂井妙子「メイド服とレインコート-ブリティッシュ・ファッションの誕生-」勁草書房 2019年
mono特別編集「コートを着る本-ピーコート・トレンチコート・ダッフルコート基本のコートに帰る-」ワールドフォトプレス 2010年

※こちらの記事の内容は原稿作成時のものです。
最新の情報と一部異なる場合がありますのでご了承ください。


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