あなたは「アップサイクル(upcycling)」という言葉の意味をご存じでしょうか。
アップサイクルとは、不要になった不用品をゴミとして捨てるのではなく、新しいアイデアやデザインをプラスし、元の製品以上に価値の高いものを生み出す仕組みのことです。
今回の記事では、リサイクルやリユースとも似た言葉でありながら、いまいちピンとこない「アップサイクル」について分かりやすく解説していきます。
アップサイクルが注目されている理由、どのようなアイデア例があるのかについても分かりやすく紹介しています。今を生きるビジネスパーソンの新しい常識として、この機会にぜひ理解を深めておいてくださいね。
アップサイクルとは
アップサイクルとは、廃棄物や不用品に新しい価値を付加してさらに価値の高いものを生み出す仕組みのことを意味します。この時点で、「なるほど、リサイクルのことね」と思った方は多いかもしれません。ですがアップサイクルとリサイクルは別ものです。
リサイクルは不用品を一度資源に変え、それを原材料として新たな製品を作ることを言います。
アルミ缶のリサイクルではアルミ缶を一旦アルミニウムに戻し、別の製品を作りますよね。この場合、「さらに価値の高いもの」を生み出していないため、アップサイクルとは言えません。
もうひとつ、比較される似た言葉に「リユース」があります。
リユースは繰り返し利用するという意味。牛乳瓶を洗浄して再利用する、不用品を販売し別の誰かに使ってもらうことなどがリユースの例です。製品自体の価値は変わらないため、これもアップサイクルとは異なります。
アップサイクルの例については、この記事の後半で紹介しますが、例えば古くなったシャツをアレンジしてファッショナブルなシャツに変えたり、空き瓶を花瓶などのインテリアとして使用したりすることが、身近なアップサイクルの事例として挙げられます。
アップサイクルが注目される理由
今なぜアップサイクルが注目されているのか、その理由はアップサイクルが環境問題改善を目指すSDGsの一貫としての取り組みだからです。
SDGsとは「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)のこと。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にも記載されている、2030年まで世界中で継続的に注力する取り組みです。
アップサイクルがなぜ環境問題改善に関係しているのか、それはCO2(二酸化炭素)の排出量を抑えることができるから。リサイクルも同様にCO2を抑える効果がありますが、不要になった部分はゴミとして焼却する必要があるため、アップサイクルほどの効果は狙えません。
これまでの取り組みとして知られる「3R(リサイクル、リユース、リデュース)」でも不用品を減らすことはもちろん可能です。
ですが、3Rが「再資源化」を目的としているのに比較して、アップサイクルは製品をもっと良いものに新しく作り替える点が大きな特徴。結果的に、1つのものを長持ちさせやすい点もアップサイクルのメリットですね。
アップサイクルはSDGsの目標達成に繋がる
アップサイクルはSDGsの目標を達成するにあたり、非常に高い効果が見込まれている取り組みでもあります。
SDGs(持続可能な開発目標)には17つの目標が掲げられていますが、そのうちの1つ、「目標12:つくる責任つかう責任」に注目してみましょう。
目標12にはさらに細かな目標が11項目定められており、アップサイクルと強い関連があると言われるのが以下(番号 12.5)の項目です。
「12.5:2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」
アップサイクルを行うことで廃棄物を減らすことができれば、この目標達成に大きく貢献できます。
さらには、アップサイクルに注力することで、「目標8:働きがいも経済成長も」で定められている以下の目標達成(番号 8.4)にも効果が見込めます。
「8.4:消費と生産の効率を上げ、経済成長による環境破壊をなくそう」
なぜなら、アップサイクルの取り組みにより新製品を生産することが増えれば、当然商品を生産する人が必要となり、雇用機会が増えるからです。
このように、アップサイクルはSDGs目標を達成させるにあたり、非常に高い効果が見込める取り組みでもあります。
アップサイクルを行うメリット
アップサイクルを行うメリットはたくさんありますが、ここでは代表的なメリットを2つのポイントに分けて解説していきます。
1. 使用エネルギーが少なく環境にやさしい
ひとつ目のアップサイクルのメリットは、エネルギーの消費が少なく環境にやさしい点です。
資源を大切にする取り組みとして最も知名度が高いのがリサイクルですが、リサイクルは製品を一旦原料に戻すため、この工程でエネルギーを多く使用します。
一方、アップサイクルでは元の原料に戻すことをしないため、製品を溶かしたり分解したりする工程が不要です。よって、使用エネルギーはリサイクルと比較しても格段に少なく、環境にとてもやさしいのです。
2. ひとつのものを長く使える
アップサイクルのもう一つのメリットは、物自体の寿命が伸びる点です。
同じものを何度も繰り返し使用する点ではリユースもアップサイクルも同じですが、リユースの場合は製品をそのまま利用し続けるため、物の寿命が劇的に伸びることはありません。
一方、アップサイクルはさらに価値のある製品に物自体を作り替えるため、単に繰り返し使用し続けるリユースよりも物自体の寿命が長くなるのがメリットです。
アップサイクルのアイデア例
ここからは、実際にアップサイクルを行う場合にどのようなアイデアがあるのか、具体的なアイデア例を紹介します。
今回紹介するのは、あなた自身もすぐに実践できる手軽なアイテムを使ったアップサイクルの例なので、機会があればぜひチャレンジしてみてくださいね。
アイデア例① 衣服をバッグに変える
手芸のテクニックが少々必要にはなりますが、手先が器用な方にはぜひおすすめしたいのが「着なくなった衣服をバッグに変える」アップサイクルです。
柄物の衣類や無地のもの、様々な衣類をパッチワークのように繋ぎ合わせて作らったトートバッグやエコバッグはとても素敵です。あえて素材の違う衣類で作ってみてもユニークでオシャレですよ。
特に子供服はサイズが合わなくなり不要になったものがどんどん増えていくもの。バッグに作り替えればまだまだこれからも使用できます。
アイデア例② 空き瓶を花瓶として使用
空き瓶を捨てずに花瓶として使用するのもアップサイクルのアイデアのひとつ。特にワインボトルなどは大きさ的にも花瓶向きで使いやすいためおすすめです。
一手間プラスして、瓶をペイントしてみるのも良いでしょう。オリジナリティ溢れる素敵なインテリアとして、あなたのお部屋を素敵に飾ってくれるはずです。
アイデア例③ 使用済みのティーバッグを脱臭剤として使用
使用済みのティーバッグを消臭剤として使用するアイデアもあります。
紅茶には、ポリフェノールの一種であるテアフラビンという成分が含まれていますが、この成分には消臭効果や抗菌力があることで知られています。
一般的な使用用途としては、靴箱の中の消臭剤としての使用。ティーバッグをそのまま小皿などに乗せて靴箱に忍ばせるだけで完了です。
アップサイクルの事例
さて、最後にアップサイクルの商品を導入している事例を10個紹介していきます。
中には超有名企業の名前もちらほら。さすがは世界中で取り組まれているSDGs、大企業が率先してアップサイクルを実行しているとなれば、その影響力は大きいですね。
アップサイクルの事例①「ミツカングループ」
※画像引用:https://zenb.jp/pages/paste
ミツカングループが開発した「ZEMB PASTE(ゼンブペースト)」は、これまで廃棄されていた野菜の皮や芯、さやなどの部分を使用したペースト。
フードロスを削減する効果はもちろんのこと、その味も最高に美味しいと大人気商品となりました。まさにアップサイクルの「価値を付加する」部分に成功しています。
ミツカングループは、その後続々と新商品を展開。丸ごと野菜のペーストや、丸ごと野菜に雑穀やナッツを加えたスティック、さらには豆100%のヌードルまでシリーズ化しています。
>> 詳細はこちら:https://zenb.jp/pages/paste
アップサイクルの事例②「オイシックス・ラ・大地」
※画像引用:https://www.oisix.com/shop.g6–sustainable_market–top__html.htm
食品の無駄(フードロス)を減らす目的で、オイシックス・ラ・大地が開発した商品が「Upcycle by Oisix(アップサイクル・バイ・オイシックス)」です。
第一弾として、「ここも食べられるブロッコリーの茎」を開発。冷凍ブロッコリー製造過程で大量に廃棄されていたブロッコリーの茎を使ったチップスで、子供から大人まで幅広く好まれる人気商品となりました。
他にも「ここも食べられる」シリーズでは、なすのヘタやだいこんの皮など、さまざまな商品を次々に開発しています。
>> 詳細はこちら:https://www.oisix.com/shop.g6–sustainable_market–top__html.htm
アップサイクルの事例③「マザーハウス(MOTHERHOUSE)」
※画像引用:https://www.mother-house.jp/project/collaboration/
マザーハウスはバッグのブランドで、日本を皮切りに多くのアジア諸国へ展開しています。
一度生み出した商品を売って終わりではなく、使われなくなった商品を回収し、その商品を作り替えて新たな価値を付加した上で新しい商品を生み出すことにこだわっているマザーハウス。
バッグに使用されているレザーは質も良く、アップサイクルを繰り返すごとにどんどん魅力を増していきます。ユニークでオリジナリティ溢れるバッグを販売するマザーハウスは、世界からも注目されるバッグブランドに成長しました。
>> 詳細はこちら:https://www.mother-house.jp/project/collaboration/
アップサイクルの事例④「カエルデザイン」
※画像引用:https://kaerudesign.net/
カエルデザインはアップサイクルの一環として、プラスチックゴミなどを回収してアクセサリーに変え販売しているブランドです。
さらに、アクセサリーを作成するのは、就労継続支援施設に通う障害をもつ人たち。SDGsの目標である環境問題改善と、働きがいや経済成長において、大きく貢献している日本のブランドとして、カエルデザインは一躍有名になりました。
>> 詳細はこちら:https://kaerudesign.net/
アップサイクルの事例⑤「パタゴニア」
※画像引用:https://www.patagonia.jp/product/provisions-x-mafiabag-upcycled-apron/PRK02.html
アウトドアブランドのパタゴニアは、パタゴニアプロビジョンズという食品事業を展開しています。
パタゴニアプロビジョンズでは、食品に限らず日常生活で普段使いできる製品を多く展開し、中でも注目を集めたのがエプロンです。このエプロンはセイル(帆)やクライミンググローブをアップサイクルして作られたもの。
オシャレで機能的なアウトドアブランドパタゴニアのエプロンですから、見た目もとても素敵です。
>> 詳細はこちら:https://www.patagonia.jp/product/provisions-x-mafiabag-upcycled-apron/PRK02.html
アップサイクルの事例⑥「バーバリー」
※画像引用:https://jp.burberry.com/our-products/
老舗ブランドのバーバリーは、2020年より「ReBurberry エディット」と名付けたアップサイクル商品のラインナップを展開しています。
デッドストックとなってしまった生地やサステナブルな素材を使用したコレクションは、多くのブランドの先駆けとして世界中が注目しています。
>> 詳細はこちら:https://jp.burberry.com/our-products/
アップサイクルの事例⑦「ビームスクチュール」
※画像引用:https://www.beams.co.jp/beamscouture/
日本で人気のセレクトショップ、ビームスはアップサイクル商品のみのブランド「ビームスクチュール」を立ち上げています。
ビームスクチュールでは、ビームスの倉庫に眠るデッドストック品をアレンジし、ひとつひとつ手作業で古着やリボンを取り混ぜながらアップサイクル商品を開発しています。さすがはビームス。アップサイクル商品は全てデザイン性に優れた素敵なものばかりです。
>> 詳細はこちら:https://www.beams.co.jp/beamscouture/
アップサイクルの事例⑧「シール(SEAL)」
※画像引用:https://seal-brand.com/blog/column/upcycle-2/
シールは廃棄されるであろう素材を率先して選び、全く思いもよらない商品に変えて販売することで知られているブランドです。
シールの人気商品は廃タイヤチューブから作られたバッグ。まさかタイヤからできているとは思えないほどの洗練されたデザインで、アップサイクル製品の中でも特に高い人気を誇っています。
>> 詳細はこちら:https://seal-brand.com/blog/column/upcycle-2/
アップサイクルの事例⑨「フライターグ(FREITAG)」
※画像引用:https://www.freitag.jp/ja/history?delivery_country=JP
スイスの老舗ブランドであるフライターグは、自動車のチューブやシートベルトから自転車用のメッセンジャーバッグを作るなど、かなり斬新なアイデアでたくさんの魅力的な製品を生み出しています。
フライターグは、「アップサイクルと言えばフライターグ」と言われるほど、アップサイクルにおいて知名度が高く、世界中が注目しているブランドでもあります。
>> 詳細はこちら:https://www.freitag.jp/ja/history?delivery_country=JP
まとめ
資源の無駄をなくすだけでなく、物にさらなる価値を加えてより良いものへと変えていくことのできるアップサイクル。今回の記事では、アップサイクルについてくわしく解説しました。
案外身近なものでもアップサイクルを行うことは可能です。あなたもぜひ、不要になったものをゴミとして捨てるその前に、「アップサイクルできるかも」と一旦立ち止まって考えてみてはいかがでしょう。
※こちらの記事の内容は原稿作成時のものです。
最新の情報と一部異なる場合がありますのでご了承ください。
この記事を書いたひと
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