はじめに
「いい本」を見つけたい。でも、どうすればいいのだろう。
本連載の第1回目の記事『いい本が見つかる書店の巡り方【基本編】入店したら試してほしい3つの方法』では、そのような疑問にお答えするべく、書店の見方という角度からご紹介してきました。
今回(第2回)は、第1回でお話しした基本的な見方を軸に、より深く書店の中に入っていきます。
その1 新刊の棚
その2 一般書の棚
その3 雑誌の棚
これら3種類の棚に分け、見るときのポイントを詳しく解説しましょう。
「普段見る棚はどのように作られているのか」や「どこに注目するのがいいのか」が簡単にわかるようになっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
その1 新刊の棚「書店が最も大事にする看板棚」
● 特徴
「新刊の棚」は、各ジャンルの新刊を集め、並べている書棚です。店舗によっては「新刊書のコーナー」「話題の新刊」などとも呼ばれています。
この棚には、発売してから1ヶ月程度までの書籍が置かれるのが一般的です。
1ヶ月以上経っているものに関しては、書店員によって新たな新刊と入れ替えるべきか、そのまま残すべきかの選定が行われます。選ばれなかったものは外され、あとは各ジャンルの棚で展開、販売されるのが主な流れです。
ただ一方で、この書棚には、新刊以外に「メディアなどで取り上げられた書籍」や「映画化が決定した書籍」など、世間で話題になっている書籍が並べられることもあります。
こうしたことから「新刊の棚」は、そこに何が並んでいるのかを見れば、世の中のトレンドがおおよそ掴めるのが特徴と言えるでしょう。
● 見るときのポイント
「新刊の棚」を見るときのポイントは4つです。
1つ目は、やはり多面展開の数を見ることです。
「新刊の棚」は主に面陳と平積みで構成されています。面陳と平積みという陳列方法は、前回お話したようにエリート書籍の並べ方です。その中でも特に多面で置かれているということは、書店員がこの書籍は確実に面白いとほぼ確信しているから、と言うことができます。
2013年にフランスで発売され、アメリカでも大変なヒットを記録した『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著)は、2014年12月にみすず書房から刊行されるや否や、多くの書店で多面展開されました。ある大型書店で、約20面展開していたケースもあります。
2つ目は、新刊のそばに関連書籍が置いていないか注目してみることです。
「新刊の棚」には、新刊でもなければ今特に話題になっている書籍でもない。そのような書籍が並べられることがあります。それは主に次のような理由からです。
- 新刊を書いた著者の作品の中で、以前とても話題になった書籍だから
- 新刊を書いた著者の作品の中で、話題にはなっていないが新刊と並べると注目を浴びそうな書籍だから
- 異なる著者だが、新刊の内容と非常に関連性が強い書籍だから
たとえば、2016年2月に『幸せになる勇気』(岸見一郎著、古賀史健著)が刊行されたとき、爆発的なヒットとなった2013年12月刊行の『嫌われる勇気』(同)が、再度「新刊の棚」に並べられるケースが多く見られました。
このようにするのも、新刊にしろ関連書籍にしろ、ひと手間かけたくなるほどおすすめしたい書籍だと書店員が判断したからです。だからこそチェックして損はないと言えます。
3つ目は、置かれている書籍の位置です。
「新刊の棚」は書店にとって集客するための看板であり、お客さんの目線の高さ(大体145~155センチ)をしばしば大事にしています。
そのため、最もおすすめな書籍が、最も見やすい高さの棚に置かれている可能性が大。「結局どれも多面展開されていて、わからない!」、そんなふうに迷ってしまった場合は、書棚の前に立ったときに何が最初に目に飛び込んでくるか、気にしてみるのもひとつです。
4つ目は、必ずしも全部の新刊が並ぶわけではないことです。
「新刊の棚」では、厳選して書籍を並べるため、当然そこに入り切らない新刊も少なくありません。そうした書籍は、各ジャンルの棚でしっかり展開されている場合もあります。
ですので、「新刊の棚」を見たら、できればそのまま「一般書の棚」にも足を運ぶといいでしょう。
その2 一般書の棚「新刊・売筋・定番を揃えるオールラウンダー」
● 特徴
ここで言う一般書は、ビジネス書や実用書、語学書、文学書などのことです。今回は、加えて文庫や新書もここに入れておきます。一般書という区切りだと基本的には入らないのですが、棚の見方という点では似ているからです。
「一般書の棚」では、新刊はもちろんのこと、既刊(発売して時間が経過している書籍)も並べられます。当然、すべてを書棚に収めることはできないため、どの既刊を置くかが書店員の腕の見せどころのひとつとなっています。
● 見るときのポイント
「一般書の棚」を見るときのポイントは2つです。
1つ目は、多面展開の書籍→面陳の書籍→平積みの書籍→棚差しの書籍の順に見ること。
前回もお話したように、基本的には書店員が面白いと見込んだ本や、多くの人の心に刺さると判断された本ほど、表紙を見せるように並べられるからです。
ただし、ここで見落としてはいけない場所があります。それがエンド台です。エンド台は書棚の一番端にある平台(平積みできる棚)のこと。非常に目立つ位置にあることから、おすすめの書籍が並べられやすい場所となっています。
ですので、まずエンド台があるならエンド台を見て、そこから面陳、平積みと移っていくと、「いい本」が見つかる可能性も高くなるでしょう。
2つ目は、フェアを探してみることです。
フェアは、書店員が関連性の高い書籍を集めて作った、オリジナルの棚を言います。
たとえば、お弁当をテーマにして和洋中のレシピブックを並べる、数学を勉強したい学生におすすめな本を集めるするなどがあたります。
フェアは、もしそのテーマに興味があってもなくても、覗いてみると面白い棚です。
興味があるテーマなら、書店員が事前に選定しているので、もちろん心に刺さる1冊が見つかる可能性が高いでしょう。
しかし逆に知らないテーマでも、並んでいる書籍のタイトルをなんとなく眺めていたら、少しだけ詳しくなってしまうことがあります。またそれをきっかけに、新しい趣味になるときもあります。
書店を訪れたら、ぜひ積極的に探してみてください。
その3 雑誌の棚「ワクワクする出会いが見つかる場所」
● 特徴
「雑誌の棚」とは、雑誌とムックが各ジャンルごとに並べられている棚です。
雑誌はご存知の通り、あらかじめ決められた日に定期的に発売される刊行物で、週刊誌、月刊誌、隔月刊誌、季刊誌などがあります。
一方、ムックは、一見雑誌のように見える姿をしていますが、一般書の性質を持っている刊行物のことです(一般書の性質についての詳細な説明は省きますが、ひとつには、雑誌と異なり長期にわたって販売されることを前提に作られていることがあげられます)。
● 見るときのポイント
雑誌を見るときのポイントは3つあります。
1つ目は、面陳→平積み→棚差しの順に、どんな雑誌が並んでいるのかざっくり目を通してみることです。
雑誌は、一般書同様に、非常にたくさんのタイトルがあります(総務省統計局が発表した雑誌の出版点数によれば、平成29年は3,480点でした)。書店によってすべてのタイトルが入ってこないとはいえ、タイトルによっては何十冊と入荷してきます。そして単純に、判型が大きいものが多いです。
そのため雑誌の棚というのは、大量かつ物理的に大きいために、常に置き方に悩まされやすい場所となっています。
こうしたことから、雑誌によっては「面白い特集」だったので面陳にしたはいいものの、次の雑誌の入荷によって、すぐに棚差ししなければならないタイトルがあります。そういった意味で、面陳や平積みだけでなく、棚差しにもきちんと目を通したほうが、どんな雑誌があるのか網羅的に確認できるでしょう。
2つ目は、表紙や背(タイトルが書かれている部分)の確認です。
棚をざっくりと見る際に、各雑誌の表紙であれば「どんな文言や写真が使われているのか」、背であれば「タイトル以外に何が書かれているのか」見てみてください。
雑誌は、同じジャンルでも異なる読者に向けて作られています(わかりやすい例をあげるなら、同じ女性誌でも『CanCam』は20代女性、『eclat』は50代女性など)。そして、ターゲットにした読者をワクワクさせるような特集が掲載されています。
表紙や背を見るのがおすすめなのは、そうした雑誌の内容を端的に表現しているからです。
ですので、表紙や背を見て素直に「面白そうだな」「なんかいいな」と思う気持ちを大切にしてみてください。そのアンテナに引っかかった雑誌は、購入しても損がないくらい、自分とマッチする内容が載っている可能性が高いでしょう。
3つ目は、ムックの置き場所です。
先ほど説明したように、雑誌は物量が多く、売り場に余裕がないことがほとんどです。
しかし雑誌は、それこそ毎回、定期的に購入しているお客さんがいます。もし雑誌の置き場所がなくなれば、お客さんが離れていってしまうかもしれない。ということで、ムックは売り場の圧迫となる=優先度があまり高くないのが、大方の書店の実状です。
ただ、そのために次のことが言えるのです。もしあるムックが面陳や平積みで並べられていたら、雑誌よりも重要度が高いと書店員が判断しているということ。つまり、非常に役立つ情報が載っている可能性が高い、と見ることができます。
最後に、雑誌とムックの簡単な見分け方をご紹介しましょう。裏表紙を見て、バーコードが1段であれば雑誌、2段であればムックです。
ちなみに、雑誌のバーコード近くには、大体「5桁の数字」+「-(ハイフン)」+「2桁の数字、もしくは日付」が並んでいます。いわゆる雑誌コードと呼ばれるものです。
この雑誌コードの頭の数(5桁の数字の最初)が、月刊誌や隔月刊誌なら「0」「1」、週刊誌や隔週刊誌なら「2」「3」、ムックなら「6」となっています。そちらから判断してみるのもいいでしょう。
まとめ
「新刊の棚」「一般書の棚」「雑誌の棚」の作られ方は、書店の規模や立地によってさまざまです。しかしおすすめの書籍を置くセオリーはあります。
今回の記事は、その一部を元に見るポイントをご紹介しましたので、ご自身がよく行く書店に訪れた際には、思い出していただければ幸いです。
※こちらの記事の内容は原稿作成時のものです。
最新の情報と一部異なる場合がありますのでご了承ください。
この記事を書いたひと
フリーライター、元書店員。趣味は散歩やDIY。百均やホームセンターがテーマパーク並に面白いことに気づきました。【時間】についてひっそりと研究中です。 Twitterやっています。